この記事の結論

  1. 2026年4月1日以降に協議離婚し、養育費を決めていなくても、離婚のときから子を主に育てている親は相手に子1人あたり月2万円の「法定養育費」を請求できます(調停・裁判で離婚した場合の扱いは弁護士などに確認を)。
  2. 養育費には先取特権が付き、子1人月8万円までは公正証書や調停調書がなくても差押えを申し立てられる仕組みになりました。
  3. 2万円はあくまで「つなぎ」の額です。相手の勤務先・住所が分からない場合は、探偵より先に裁判所の手続と弁護士・公的窓口を確認しましょう。
「取決めゼロでも 子1人 月2万円」
「取決めゼロでも 子1人 月2万円」。図を選ぶと拡大できます。

※本記事は2026年10月31日時点で法務省などの公表資料を確認してまとめた一般的な情報です。個別の事情での判断は、弁護士や法テラスなどの専門窓口に確認してください。


法定養育費2万円は誰がいつまで請求できる?

法定養育費は、2026年4月1日に施行された改正民法(766条の3)で新しくできた制度です。離婚のときに養育費の取決めをしなかった場合でも、一定額を相手に請求できるようにするためのものです。

金額は、養育費に関する法務省令(令和7年法務省令第56号、2026年4月1日施行)で「子1人につき月額2万円」と定められました。子が2人なら月4万円、3人なら月6万円です。

請求できる人は、離婚のときから引き続き、子の世話(監護)を主に行っている親です。請求する相手は、もう一方の親です。条文(766条の3)は、協議離婚で養育費を定めなかったケースについて定めています。調停離婚・裁判離婚の場合にどう扱われるかは、この記事では確認しきれていないため、該当する人は弁護士や法テラスに確認してください。

期間は次のとおりです。

  • 始まり:離婚した日から発生し、毎月末にその月の分を支払う形
  • 離婚した月と終わる月は日割り
  • 終わり:次のうちいちばん早い日まで
    • 父母が養育費の取決めをした日
    • 家庭裁判所の養育費の審判が確定した日
    • 子が18歳(成年)になった日

なお、相手が「支払う能力がない」「払うと生活が著しく苦しくなる」ことを証明した場合は、全部または一部の支払を拒めます。法務省のパンフレットでは、相手が生活保護を受けている場合が例に挙げられています。

2026年3月以前に離婚した人も法定養育費の対象?

対象外です。 法定養育費は、改正法の施行日(2026年4月1日)以降に離婚した場合にだけ適用されます。2026年3月31日までに離婚した人には、法定養育費は発生しません。

施行前に離婚した人が養育費を受け取るには、これまでどおり父母の話し合いか、家庭裁判所の調停・審判で額を決める必要があります。

ただし、施行前に取決めをしていた人にも関係する改正があります。施行前の取決めであっても、2026年4月1日以降に発生する分の養育費には先取特権が付きます(次の章で説明します)。

取決めがある場合と法定養育費はどう違う?

法定養育費は、取決めができるまでの暫定的・補充的な制度です。法務大臣も記者会見で、2万円は「養育費の標準額」ではないと説明しています。比べると次のようになります。

比べる点 法定養育費(取決めなし) 取決めあり(協議・調停・審判)
金額 子1人 月2万円で一律 双方の収入などを踏まえて決める
始まり 離婚日から自動的に発生 取決めの内容による(離婚時に遡って決めることも可能とされる)
終わり 取決め・審判確定・子が18歳の早い日 取決めの内容による
相手の減額・拒否 支払能力がないこと等を相手が証明すれば拒否可 事情が変われば変更の申立てが可能
差押え 先取特権を使って申立て可 子1人月8万円までは先取特権、超える部分は債務名義(公正証書・調停調書など)が必要

法定養育費が発生していても、協議を引き延ばして得をすることはありません。収入に合った額を早めに決めることが、子どもにとって大切だとされています。

養育費の先取特権で何ができる?上限はいくら?

改正民法では、一般の先取特権の対象に「子の監護の費用」が加わりました(306条3号・308条の2)。ポイントは2つです。

  • 債務名義がなくても差押えを申し立てられる:これまでは公正証書や調停調書などが必要でした。改正後は、取決めのときに父母で作った文書をもとに、相手の財産の差押えを申し立てられます。
  • 他の一般の債権者より優先される:相手に借金があっても、養育費の分を優先して回収しやすくなります。

上限は、省令で「子1人につき月額8万円」と決まっています(子2人なら月16万円、子3人なら月24万円)。取決めの額が8万円より少なければ、その額が上限になります。8万円を超える部分も差押えはできますが、その場合は公正証書や調停調書などの債務名義が必要です。

法定養育費の未払いについても、差押えの手続を申し立てられるとされています。必要書類は事案によって変わり得るため、申立て前に裁判所や弁護士に確認しましょう。

差押えの手続はどう進む?

2026年4月の改正で、未払い養育費を回収する手続も使いやすくなりました。

  1. 一括申立て:地方裁判所への1回の申立てで、①財産開示手続(相手が財産を明らかにする)→②市区町村に相手の給与情報の提供を命じる→③分かった給与を差し押さえる、という流れをまとめて進められます。
  2. 収入情報の開示命令:家庭裁判所で養育費を決める手続の中で、相手に収入情報の開示を命じられるようになりました。

給与を差し押さえるには、相手がどこで働いているかが分かる必要があります。この勤務先を知る方法が、次の章です。

相手の勤務先・住所が分からないときはどうする?

まずは裁判所の情報取得手続

裁判所には「第三者からの情報取得手続」があり、相手の勤務先を公的な記録から調べる道があります。情報の提供元になるのは、主に次の2つです。

  • 1月1日時点で相手が住んでいた市区町村(住民税の給与情報)
  • 日本年金機構や各共済組合など厚生年金を扱う団体

原則として財産開示手続を先に行うなどの要件があり、改正後は上の「一括申立て」とつながる仕組みになっています。自分の書類で使えるかどうかは、申立て先の地方裁判所か弁護士に確認してください。

住所が分からないなら弁護士・公的窓口へ

相手の住所がまったく分からない場合、どの手続をどの裁判所に出すかから判断が必要です。まずは次の窓口に相談しましょう。

  • 養育費等相談支援センター:0120-965-419(携帯電話などからは03-3980-4108)
  • 法テラス・サポートダイヤル:0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時。祝日・年末年始を除く)
  • 地域の弁護士会の法律相談、自治体のひとり親相談

ほかの相談先は公的な相談窓口一覧にまとめています。

情報が少ない段階での相談の進め方は、調査対象者の情報が少ないときの相談方法も参考にしてください。

探偵に所在を相談するなら、何に気をつける?

探偵社への相談は、公的手続と並行して検討する選択肢の一つです。ただし、探偵業法には依頼者も知っておくべきルールがあります。

  • 違法な方法は使えない:探偵業者は、他の法令で禁止されている行為はできず、人の生活の平穏を害さないようにしなければなりません(探偵業法6条)。
  • 誓約書面を出す:契約のとき、依頼者は「調査結果を犯罪や違法な目的に使わない」旨の書面を出します(7条)。
  • 悪用が分かれば調査しない:調査結果が犯罪などに使われると分かった場合、業者は調査をしてはいけません(9条)。
  • 重要事項の説明と契約書面:契約前に、業務の内容や料金の概算などを書いた書面で説明を受け、契約後には調査の内容・期間・方法や料金などを書いた契約書面を受け取れます(8条)。

依頼者自身が尾行したり、相手の端末を勝手に見たりするのも避けましょう。詳しくは探偵に依頼できる調査と、依頼者が避けるべき違法行為で解説しています。

DV・虐待の事情がある場合は、所在調査そのものが危険につながることがあります。相手が自分の意思で住所を伏せている、保護命令や住民票の支援措置の対象になっている、といった事情は、探偵業者の側でも確認され、調査を受けてもらえないことがあります。探偵業法にDVを名指しした条文はありませんが、調査結果が犯罪などに使われると知ったときは業者は調査をしてはならない(9条)とされています。自分が被害を受けている側なら、DV相談ナビ(#8008)、児童相談所虐待対応ダイヤル(189)、警察相談(#9110)に相談してください。DV・ストーカー被害と所在調査の考え方もあわせて確認を。

DV・虐待の事情がなく、公的手続と並行して探偵社に相談したい場合は、調査方法と費用の見通しを比べられる相談先から始めると安心です。

法定養育費を請求する前のチェックリスト

チェック 確認すること
□ 離婚日は2026年4月1日以降か(3月31日以前なら協議・調停へ)
□ 離婚のときから自分が子を主に育てているか
□ 養育費の取決めを本当にしていないか(口約束・メモも含めて確認)
□ 子の人数と、月いくら(2万円×人数)になるか
□ 子が18歳になる日はいつか
□ 相手の住所・勤務先・連絡先で分かっていることを書き出したか
□ 収入に合った額を決めるため、協議か家庭裁判所の調停を検討したか
□ 取決めをしたら書面に残したか(先取特権の差押えに使える)
□ DV・虐待の事情がある場合、先に公的窓口に相談したか
□ 養育費等相談支援センターや法テラスに相談する日を決めたか

よくある質問

Q1. 法定養育費は自動で振り込まれますか? A. いいえ。権利は離婚日から発生しますが、相手に請求する必要があります。払われない場合は差押えの申立てを検討します。

Q2. 子どもが3人いると、いくら請求できますか? A. 法定養育費は2万円×3人で月6万円です。先取特権の上限は8万円×3人で月24万円です。

Q3. 2025年に離婚しました。今から法定養育費をもらえますか? A. もらえません。施行日(2026年4月1日)より前の離婚は対象外です。協議や家庭裁判所の調停で額を決めましょう。

Q4. 相手が「お金がない」と言って払いません。 A. 相手は、支払能力がないことなどを自分で証明しなければ拒否できません。判断が難しいときは弁護士や法テラスに相談してください。

Q5. 相手の勤務先が分かりません。探偵に頼むべきですか? A. まずは裁判所の情報取得手続(市区町村・年金機構からの勤務先情報)を使えないか、弁護士に確認するのがおすすめです。探偵に相談する場合も、探偵業法の範囲内の調査に限られます。

Q6. 2万円で足りない場合はどうすればいいですか? A. 2万円は暫定の額です。父母の協議や家庭裁判所の調停・審判で、収入に合った額を決められます。


出典(2026年10月31日確認)

  • 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
  • 法務省 パンフレット「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」 https://www.moj.go.jp/content/001449160.pdf
  • 法務省「子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令」概要 https://www.moj.go.jp/content/001452582.pdf
  • 法務省「子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令」 https://www.moj.go.jp/content/001452581.pdf
  • 法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 https://www.moj.go.jp/content/001419098.pdf
  • 法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要」(令和7年11月28日) https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00673.html
  • 法務省「養育費に関する法務省令の制定に向けた検討会(第6回)議事概要」 https://www.moj.go.jp/content/001451090.pdf
  • 政府広報オンライン「法定養育費 取決めがなくても請求できる暫定的な養育費」 https://www.gov-online.go.jp/article/202607/entry-11412.html
  • 東京地方裁判所「勤務先情報の取得手続」 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzisection21/dai3shajyouhoushutoku/kinmusakijyouhoushutoku/index5.html
  • 神奈川県警察「探偵業の業務の適正化に関する法律」の概要 https://www.police.pref.kanagawa.jp/tetsuzuki/eigyokankei/tantei/mesd0091.html

参考資料

公開時の確認日:2026年10月31日。資料の公開日・対象時点は各リンク先をご確認ください。